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日本最大の客船・飛鳥IIの2010年世界一周クルーズに、讃岐うどんのゲストシェフとして参加させていただきました。(乗船までの経緯はこちらを参照)100日以上あるクルーズの中で、私が乗船したのは6月3日から18日まで。ニューヨークからアカプルコまでを航海した16日間です。船が日本を出発してから約60日が過ぎてお客様が日本食に恋しくなる時期らしく、それがメニューに讃岐うどんが抜擢された理由のようでした。到着してまず取りかかったのは、実演向けうどん生地の試作です。昨年飛鳥IIの厨房で業務体験を行ってはいましたが、うどんは気候条件によって最適な塩加減が微妙に変わり、鍛え方や切り幅も変えなければ満足行く仕上がりにはなってくれません。特に今回は「この一杯で讃岐うどんの評価が決まってしまう大舞台」です。万が一も本番での失敗は許されません。実際生地作りは90%以上という予想を超えた高湿度に苦戦し2度も失敗。34年うどんを打ってきましたが、香川を離れた異境の地でうどん作りの奥深さを再認識させられるとは思ってもいませんでした。
そしてなんとか高湿度下で生地をコントロールできるようになり、手打ちの実演に臨みました。特設ステージを囲むように集まったお客様は約300人。打ち棒と麺切り包丁を使った手打ちの技にはかなり興味を持っていただいたようで、たくさんの質問をいただきました。その後のランチでお出したのは、当店自慢の「ひや天おろし」。ランチは和食と洋食を選ぶことができ、8割の方が和食を選ぶと聞いていたのですが、それより多目の数を用意することにしました。蓋を開けてみると初日はほぼ全員の方が和食に来られ、おかわりをする方も大勢いたため数はギリギリ。スタッフに聞いたところ、和食ランチの最高記録を更新したそうです。こうして提供した讃岐うどんは、ランチ3回とディナー1回。ディナーでは、担当シェフとしてお客様ひとりひとりに挨拶する機会もいただきました。
華やかな表舞台の反面、現場は大変でした。飛鳥の調理スタッフが専属で1人と、和食スタッフが20人サポートしてくれたとはいえ、本店で1日に出すほぼ半分の数を1時間で提供しなれけばいけません。加えてうどん作りは、生地の足踏みから手切りまでの作業は私1人。さらに麺の茹で加減から盛りつけ、お客様にお出しするまでのチェックもこなさなければなりません。これまでに経験したことがないほどのハードワークでしたが、1杯たりともおろそかにせず結果として最高のものを提供できたと自負しております。とはいえ、ランチの初日は無我夢中で頑張った疲労感と、お客様の評価を聞いた安堵感で力が抜けてしまい、夕食も取らずに眠ってしまいましたが。
船内では乗船客向けにうどん打ち教室も行いました。大勢の方にご参加いただきましたが、毎年地元の宇多津北小学校で取り組んでいる「手練り手打ちうどん体験学習授業」での経験が非常に役に立ちました。手打ち実演でもデパート等のの催事での体験が生かされています。今回の乗船ほど様々な過去の経験に助けられたと感じたことはありませんでした。
またディナーでは和食のスタッフと共に会席メニューに取り組みましたが、他の料理人との共同作業は大きな刺激になりましたし、現地ですだちが手に入らなかったためメキシコのパーシャンライムを使ってみるという新しい組み合わせにも挑戦しました。帰国後、郵船クルーズの担当者様から、讃岐うどんの美味しさにお客様が大変満足してくださったとお知せいただきました。ホッとすると同時に、今後も讃岐うどんの味を世の中に広める機会があるのでしたら、ぜひ微力ながら取り組ませていただきたいと思っています。この貴重な経験を与えてくれた皆様と協力していただいた方々に感謝するとともに、それを生かしてさらに美味しいうどんを提供できるよう精進していきます。
最後に蛇足ではありますが、クルーズ途中で立ち寄った美しい島々や運河の写真をご覧下さい。
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世界一周クルーズ飛鳥II
招待シェフ乗船レポート 北欧編
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